学会誌「EICA」

[第24回研究発表会:パネルディスカッション] 東日本大震災から学ぶ

内容
(1)経緯
東日本大震災では沿岸に配置されていた下水処理場において未曾有の被害を受けた。被害の形態は非常用発電機を例にとると表1の様にそれぞれ異なる。被害の特徴は、以下の通りである。
1.津波の波力や浸水による被害が甚大であった
2.下水処理場の配置によって津波被害が大きく変わった
3.復旧に長期間を要し、暫定的な下水処理が必要であった
4.地震動による被害は甚大ではなかった
5.ほとんどの下水道関係者が生還できた
被災の内容は、環境システム計測制御学会の専門分野である下水道の電気設備や機械設備に集中していることから、当学会では、平成23年7月に東日本大震災調査研究委員会(京都大学教授田中宏明委員長)を立ち上げ、東日本大震災における下水道電気・計装設備の被災状況調査に乗り出した。同11月には調査団を編成して石巻東部浄化センター、仙塩浄化センター、南蒲生浄化センター、県南浄化センターを現地調査した。
これらの情報は、「EICA東日本大震災調査研究報告書」(報告書)として、平成24年3月に発刊した。さらに、同7月には英語版を公表してEICAのホームページに掲載した。
(2)提言
報告書には、被災状況の現状分析をした上で、対応策として12の提言をした。その内容は以下の通り。
? 情報共有と通信手段の確保
? BCP(事業継続計画)の策定
? 電気・計装設備の縮退運転
? 電源の確保
? 重要な電気・計装設備の2階以上への移転
? 電気・計装設備関連防水施設の設置
? 受電経路や通信回線引込の地下ケーブル化
? 蓄電池過放電対策
? 自家用発電機補機の浸水対策
? 浮力による機器破壊対策
? 地震発生後の職員安全の確保
? 地震動対策
(3)講演会
これらの提言が実現することを期待して関東近辺の自治体下水道事業者を対象に表2のように講演会を実施した。講演会では、これからの地震や津波被害に備えるためには、
? 新しい形態の複合災害を想定する
? 最小限の下水道機能を確保する
? 津波災害を学び、伝え、正しく怖れる
などの主旨を示し、共感を得た。
(4)パネルディスカッション発言主旨
?情報共有。下水道の被災経験が共有されず、無視されている現状がある。そもそも被災経験は忘れられやすい。一方、特高受電室を他の施設よりもわずか1m程高く建設しただけで津波を免れた事例がある。このような成功事例は報道されていない。被災経験や成功事例を体系的にまとめ、伝えることが重要である。その際、被災情報を災害時はもちろん平時にも活用するには知恵や創意工夫が必要である。
?浸水対策。どの施設も高所移転は難しい。コスト的にも配置的にも限界がある。その場合には次善の策を取るべきだ。例えば、ガスタービン発電機のパッケージは防音の目的で密閉機能が頑丈にできており、仙塩浄化センターでは津波による浸水に絶えた。南蒲生浄化センターではディーゼル発電機建屋の防火扉が津波の浸水を防いだ。防水構造というと潜水艦の様な頑丈な密閉構造になることが多いが、防火扉でも浸水を30分程度持てば機能は維持できることもある。対応は柔軟であるべきだ。
?ネットワーク化。施設のネットワーク化は効果が大きいので積極的に進めるべきである。東京湾を取り巻く沿岸に多数の下水処理場と汚泥処理プラントが配置されている。これらをネットワークで結ぶことにより、災害時に相互融通で強靭化するとともに、負荷の平準化や稼働率向上、更新工事対策など平時の効果も期待できる。ネットワーク化は下水、汚泥に限らず、再生水、非常用電力、情報、に及ぶ。
?強靭な下水処理場。今後もかなりの確率で下水道に関する災害が発生する。ハードに加えてBCPや災害支援体制、毅然と対処する覚悟、気概が重要である。「悲観的に準備して楽観的に対処する」という格言に従えば、シミュレーション、訓練、備蓄、リーダーシップが必要である。
17巻2/3号2012年
Page
5
題名
東日本大震災から学ぶ
Title
Learning from the East Japan Earthquake
著者
中里卓治
Authors
著者表記
Author attribution
Takuji Nakazato
著者勤務先名
(株)ティエスジー
Office name
著者所属名
顧問 (EICA名誉会員)
キーワード
Key Words
概要
(1)経緯 東日本大震災では沿岸に配置されていた下水処理場において未曾有の被害を受けた。被害の形態は非常用発電機を例にとると表1の様にそれぞれ異なる。被害の特徴は、以下の通りである。 1.津波の波力や浸水による被害が甚大であった 2.下水処理場の配置によって津波被害が大きく変わった 3.復旧に長期間を要し、暫定的な下水処理が必要であった 4.地震動による被害は甚大ではなかった 5.ほとんどの下水道関係者が生還できた 被災の内容は、環境システム計測制御学会の専門分野である下水道の電気設備や機械設備に集中していることから、当学会では、平成23年7月に東日本大震災調査研究委員会(京都大学教授田中宏明委員長)を立ち上げ、東日本大震災における下水道電気・計装設備の被災状況調査に乗り出した。同11月には調査団を編成して石巻東部浄化センター、仙塩浄化センター、南蒲生浄化センター、県南浄化センターを現地調査した。 これらの情報は、「EICA東日本大震災調査研究報告書」(報告書)として、平成24年3月に発刊した。さらに、同7月には英語版を公表してEICAのホームページに掲載した。 (2)提言 報告書には、被災状況の現状分析をした上で、対応策として12の提言をした。その内容は以下の通り。 ? 情報共有と通信手段の確保 ? BCP(事業継続計画)の策定 ? 電気・計装設備の縮退運転 ? 電源の確保 ? 重要な電気・計装設備の2階以上への移転 ? 電気・計装設備関連防水施設の設置 ? 受電経路や通信回線引込の地下ケーブル化 ? 蓄電池過放電対策 ? 自家用発電機補機の浸水対策 ? 浮力による機器破壊対策 ? 地震発生後の職員安全の確保 ? 地震動対策 (3)講演会 これらの提言が実現することを期待して関東近辺の自治体下水道事業者を対象に表2のように講演会を実施した。講演会では、これからの地震や津波被害に備えるためには、 ? 新しい形態の複合災害を想定する ? 最小限の下水道機能を確保する ? 津波災害を学び、伝え、正しく怖れる などの主旨を示し、共感を得た。 (4)パネルディスカッション発言主旨 ?情報共有。下水道の被災経験が共有されず、無視されている現状がある。そもそも被災経験は忘れられやすい。一方、特高受電室を他の施設よりもわずか1m程高く建設しただけで津波を免れた事例がある。このような成功事例は報道されていない。被災経験や成功事例を体系的にまとめ、伝えることが重要である。その際、被災情報を災害時はもちろん平時にも活用するには知恵や創意工夫が必要である。 ?浸水対策。どの施設も高所移転は難しい。コスト的にも配置的にも限界がある。その場合には次善の策を取るべきだ。例えば、ガスタービン発電機のパッケージは防音の目的で密閉機能が頑丈にできており、仙塩浄化センターでは津波による浸水に絶えた。南蒲生浄化センターではディーゼル発電機建屋の防火扉が津波の浸水を防いだ。防水構造というと潜水艦の様な頑丈な密閉構造になることが多いが、防火扉でも浸水を30分程度持てば機能は維持できることもある。対応は柔軟であるべきだ。 ?ネットワーク化。施設のネットワーク化は効果が大きいので積極的に進めるべきである。東京湾を取り巻く沿岸に多数の下水処理場と汚泥処理プラントが配置されている。これらをネットワークで結ぶことにより、災害時に相互融通で強靭化するとともに、負荷の平準化や稼働率向上、更新工事対策など平時の効果も期待できる。ネットワーク化は下水、汚泥に限らず、再生水、非常用電力、情報、に及ぶ。 ?強靭な下水処理場。今後もかなりの確率で下水道に関する災害が発生する。ハードに加えてBCPや災害支援体制、毅然と対処する覚悟、気概が重要である。「悲観的に準備して楽観的に対処する」という格言に従えば、シミュレーション、訓練、備蓄、リーダーシップが必要である。
Abstract

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